エンジェル税制とは

エンジェル税制は、ベンチャー企業への投資を促進するため、個人投資家(エンジェル)に税制上の優遇措置を与える制度です。投資家が一定条件を満たすスタートアップに投資した場合、所得控除や株式譲渡益からの控除により節税効果を得られます。

企業側にとっては、投資家にとって魅力的な投資案件となることで、個人投資家からの資金調達の成功確率が大幅に向上します。スタートアップのPMF(市場適合)達成を見据えた資金戦略の重要なツールです。

1. 税優遇の内容

個人投資家は「株式取得時点」と「株式売却時点」のそれぞれで税制優遇を受けられます。優遇措置は起業特例優遇措置A優遇措置A-2優遇措置Bプレシード・シード特例の5つがあり、企業の設立経過年数と外部資本比率に応じて適用が異なります。

株式取得時点の優遇

優遇措置対象控除内容
起業特例設立1年未満会社設立時の自己資金による出資額全額を譲渡益から控除。20億円までは非課税(超える分は課税繰延)。創業者本人が使う措置で、外部投資家向けではありません
優遇措置A設立5年未満投資額−2,000円を総所得金額等から控除。上限は総所得×40%と800万円のいずれか低い方
優遇措置A-2設立5年未満控除の内容は優遇措置Aと同じ。プレシード・シード特例の企業要件(営業損益0未満等)を追加で満たす場合に、外部資本比率の要件が1/6以上から1/20以上に緩和されます
優遇措置B設立10年未満投資額全額をその年の他の株式等譲渡益から控除。上限なし
プレシード・シード特例設立5年未満投資額全額を譲渡益から控除。20億円までは非課税(超える分は課税繰延)。※基準日が令和5年4月1日以降

株式売却時点の優遇

取得時優遇を受けた株式を売却する場合、課税の繰延(優遇措置A・B)または非課税(プレシード・シード特例)のメリットがあります。譲渡損失が発生した場合は、その年の他の株式等譲渡益と相殺可能で、翌年以降3年間の繰越控除も利用できます。

2. 令和7年度改正で変わった2点(2026年1月から)

令和7年度税制改正で、エンジェル税制に2つの変更が入りました。令和8年(2026年)1月1日以降に取得した株式から適用されます。

変更点内容
① 再投資期間の延長株式譲渡益が発生した年分の確定申告時の手続き等を前提に、譲渡益が発生した翌年末まで(最大2年間)に投資をした場合も適用が受けられるようになりました
② 保有期間の設定非課税措置について、株式を取得した翌年末までの保有期間が設定されました。ただしIPOやM&A等の一定の場合の譲渡は除かれます

①は投資家にとって有利な変更ですが、②は従来なかった制限です。対象は非課税措置(起業特例・プレシード・シード特例)で、課税繰延タイプ(優遇措置A・A-2・B)は保有期間の対象になりません。投資家に「非課税です」と伝えるときは、20億円の上限とあわせて、この保有期間の条件も添える必要があります。

また、年末年始をまたぐ払込では、2025年12月の取得と2026年1月の取得で適用されるルールが違います。「12月中に締めたい」と「1月に回したほうがいい」が案件によって逆転しうるため、払込日を決める前にどちらのルールに乗るかを確認してください。

3. 企業の5つの要件

エンジェル税制の優遇措置を受けるには、基準日において企業要件と個人投資家要件をすべて満たす必要があります。要件の詳細(東京都例)をご確認ください。

要件1:持株割合

特定の株主・株主グループの保有株式割合が5/6を超えないこと。プレシード・シード特例では19/20に緩和。特定の株主とは発行済株式総数の30%以上を保有する株主を指します。

要件2:大規模法人

大規模法人(資本金1億円超等)ないし大規模法人グループの所有に属さないこと。発行済株式の1/2超を1つの大規模法人グループに保有されていないことが必要です。

要件3:未上場・風俗営業等でないこと

未上場・未登録の株式会社であり、風俗営業等に該当しないこと。

要件4:中小企業であること

業種ごとの資本金または従業員数で中小企業の基準を満たすこと(例:製造業は資本金3億円以下かつ従業員300人以下、小売業は5,000万円以下かつ50人以下など)。

要件5:設立経過年数に応じた要件

設立経過年数(1年未満/1年以上2年未満/2年以上3年未満/3年以上5年未満/5年以上10年未満)に応じて、研究者・新事業活動従事者の人数営業キャッシュフロー試験研究費等の比率売上高成長率などのいずれかのパターンを満たす必要があります。詳細はお住まいの自治体の要件表で確認してください。

申請取り下げになりやすいポイント

企業要件1(持株割合)、個人投資家要件1(現金・新規発行株式)、個人投資家要件2(同族会社判定)に反するケースが多い傾向があります。増資前の段階で税理士・会計事務所に相談することをおすすめします。

4. 個人投資家の2つの要件

要件1:現金・新規発行株式での取得

現金出資により、企業が新規に発行した株式を取得していること。現物出資や既発行株式の取得は対象外です。

要件2:同族会社判定の基礎となる株主に属さない

対象企業が同族会社の場合、所有割合が大きい上位の株主グループに属さない投資家のみがエンジェル税制の適用対象となります。同族会社とは、3人以下の株主・株主グループの所有割合が50%超となる会社です。

5. 申請から確定申告までの流れ

申請は本店所在地の自治体(都道府県・政令指定都市)に対して行います。手続きフロー(東京都例)に沿って、次の流れで進みます。

  1. Ⅰ 事前確認申請(任意):増資前なら本店所在地の自治体へ事前確認申請が可能。増資後の場合は不要。
  2. Ⅱ 企業の資金調達:株主総会決議、投資契約締結、払込、増資登記。
  3. Ⅲ 企業が自治体へ確認申請:申請要件の確認、必要書類の準備、電子申請。
  4. Ⅳ 自治体から確認書の交付:確認書を受領し、投資家用の確定申告書類を作成・交付。
  5. Ⅴ 投資家が税務署へ確定申告:企業から受領した書類を添付し確定申告。

申請はお早めに

申請書類の不備などから、窓口に連絡してから確認書の交付まで平均3か月以上かかるケースが多いです。日程に余裕をもって準備し、不明点は本店所在地の自治体のエンジェル税制担当窓口まで事前にお問い合わせください。

6. J-KISS(有償新株予約権)の扱い

令和6年度税制改正により、有償新株予約権(いわゆるJ-KISS等)もエンジェル税制の対象に入りました。シード期の調達でJ-KISSを使う会社は多いため実務上は大きい改正ですが、次の3点を正確に押さえておく必要があります。

1. 対象は2024年4月1日以降に取得した新株予約権のみ

2024年3月31日以前に権利を取得したものは対象になりません。過去のラウンドに遡って使える制度ではありません。

2. 控除を受けられるのは「株式を取得した年分」

投資家が控除を受けられるのは、新株予約権を行使して株式を取得した年分であって、J-KISSに投資した年ではありません。したがって、転換されないまま会社が立ち行かなくなった場合、投資家は控除を受けられません。「J-KISSでもエンジェル税制が使えます」ではなく、「転換して株式になったときに、その時点で要件を満たしていれば使えます」が正確な説明になります。

3. 転換条項の書き方で結論が変わりうる

税制の対象になるのは、行使に伴う払込みによって株式を取得する形です。権利を行使せずに株式へ転換される建て付けになっていると、対象から外れる可能性があります。J-KISSは広く使われている雛形ですが発行要項の書き方には幅があるため、「J-KISSだから大丈夫」と判断せず、その案件の転換条項を実際に確認してください。

なお、経済産業大臣の認定を受けた少額電子募集取扱業者(ECF)経由の投資について、当該事業者が確認書を発行する場合は、この改正による措置の適用を受けることはできないとされています。

7. まとめ:税理士・会計事務所に相談を

エンジェル税制は、スタートアップの資金調達と投資家の節税を両立できる強力な制度です。一方で、企業要件・個人投資家要件は複雑で、申請書類の不備による遅延も少なくありません。

税理士・行政書士事務所によるエンジェル税制の申請代行・確定申告サポートを活用すれば、適用可能性の診断から確認申請の書類作成・提出、投資家へ交付する書類の整理、投資家の確定申告まで一貫してサポートを受けられます。申請先は本店所在地の自治体(東京都、大阪府、その他都道府県・政令指定都市)となり、全国で同様の制度が運用されています。