エンジェル税制は、投資した年分の確定申告で適用を受ける制度です。会社から受け取る書類をそろえ、どの措置で申告するかを決めて、期限内に出すことが基本になります。
この記事の要点
- 投資した年分の確定申告で、会社から受け取った確認書などを添付して申告します。
- 優遇措置Aは、投資額のうち一定額を総所得金額等から寄附金控除として差し引きます。ほかに寄附金がない場合、「投資額(上限800万円)」と「総所得金額等の40%」のうち低い額から2,000円を引いた額が控除額です。
- 優遇措置B・プレシード・シード特例は、投資額をその年の株式等の譲渡所得から差し引きます。
- 令和7年度改正により、令和8年1月1日以後に払込みで取得した株式は、譲渡益から引ききれない額について前年分の所得税の還付(繰戻し還付)を請求できる場合があります。対象は優遇措置B・プレシード・シード特例・起業特例で、優遇措置Aは対象外です。前年分の確定申告書に申出書を添付して期限内に出し、当年分の確定申告書も期限内に出すことが条件です。
- 適用した後は、原則として株式の取得価額の調整が必要です(例外があります)。
1. 結論:確定申告で何をするか
エンジェル税制の適用を受けるには、株式を払込みで取得した年分の確定申告書に、適用を受ける旨を記載し、会社から受け取った書類と計算明細書を添付して提出します(国税庁 タックスアンサーNo.1530、No.1150)。確定申告の期間は原則として翌年2月16日から3月15日までで、2026年分は2027年2月16日(火)から3月15日(月)までです。
個人が直接投資した場合、会社が都道府県に確認申請をして交付を受ける「確認書」がないと、申告に必要な書類がそろいません。会社側の手続きと投資家側の申告は別の流れなので、払込みの時期と確認書が届く時期を、早めに会社と共有しておくことが大切です。
2. 措置の違い
投資家が確定申告で使う措置は、控除する所得の種類と、翌年以後の取得価額の扱いが異なります。主な違いは次のとおりです(No.1530・No.1544、経済産業省 申請ガイドライン)。
表は左右にスクロールできます
| 措置 | 控除の方法 | 上限 | 繰戻し還付 | 取得価額の調整 |
|---|---|---|---|---|
| 優遇措置A | 投資額のうち一定額を、総所得金額等から寄附金控除 | 投資額(800万円まで)と総所得金額等の40%のうち低い額から、2,000円を引いた額 | 対象外 | 控除額を取得価額から差し引く |
| 優遇措置B | 投資額を、その年の株式等の譲渡所得から控除 | その年の株式等の譲渡所得の合計額まで | 対象(令和8年1月1日以後の取得分) | 控除額と、繰戻し還付の基礎になった控除未済額を取得価額から差し引く |
| プレシード・ シード特例 | 投資額を、その年の株式等の譲渡所得から控除 | その年の株式等の譲渡所得の合計額まで | 対象(同上) | 合計20億円以下なら不要(例外あり。第7章) |
| 起業特例 | 発起人が設立時に払い込んで取得する株式(設立特定株式)の取得額を、株式等の譲渡所得から控除 | その年の株式等の譲渡所得の合計額まで | 対象(同上) | 合計20億円以下なら不要。超える場合は超える部分を差し引く(第7章) |
- 起業特例は、会社を設立する発起人が、設立のときに払い込んで取得する株式が対象です。外部の投資家が優遇措置A・Bと同じように選べる措置ではありません。
- なお、プレシード・シード特例の企業要件を満たす会社に投資する場合、優遇措置Aの外部資本に関する要件が緩和される扱いもあります(申請ガイドライン)。
- 確認書は、会社が要件を満たしていることを示す書類です。どの措置で申告するかは、投資家ご自身の所得や譲渡益の状況にもよります。
3. どの措置を選ぶか:判断の軸
優遇措置AとBのどちらも使える場合、どちらが有利かは人によって変わります。この記事では結論を示さず、検討するときの軸だけを挙げます。
- 総所得金額等の水準:優遇措置Aは総所得金額等から控除するため、控除できる額の上限は総所得金額等の40%と800万円に左右されます。
- その年と前年の株式譲渡益:優遇措置B・プレシード・シード特例は、株式等の譲渡所得がなければ、その年に控除できる額がありません。
- 前年分の申告で、繰戻し還付の申出をしたか:令和8年1月1日以後の取得分で、前年の譲渡益について還付を受けたい場合の前提になります。
- 売却の予定と保有期間:取得価額の調整は、将来売却したときの譲渡所得に影響します。プレシード・シード特例・起業特例には、令和8年1月1日以後の取得分から保有期間の要件もあります。
所得控除の額(いくら所得から引けるか)と、実際に減る税額や還付額は別のものです。比べるときは、税率をかけた後の税額で比べる必要があります。
エンジェル税制 制度マップ(令和7年度改正対応・A4×2枚)
優遇措置A・B・プレシード・シード特例・起業特例の比較と、事前確認から確定申告・保有までの流れを1つにまとめた資料です。メールアドレスの登録と配信への同意が必要です。個別の適用判断は含みません。
4. 必要書類チェックリスト
個人が直接投資した場合に確定申告で添付する書類は、措置ごとに次のとおりです(申請ガイドライン「確定申告時の提出書類」、国税庁No.1150)。①②④は会社から交付を受ける書類です。認定LPS・認定ECF経由で取得した場合は、確認書の発行者などが異なるため、ガイドラインで確認してください。
表は左右にスクロールできます
| 必要書類 | 優遇措置A | 優遇措置B | プレシード・ シード特例 |
|---|---|---|---|
| ① 都道府県知事の確認書 | ○ | ○ | ○ |
| ② 一定の株主に該当しない旨の確認書 | ○ | ○ | ○ |
| ③ 投資契約書の写し | ○ | ○ | ○ |
| ④ 株式異動状況明細書 | ○ | ○ | ○ |
| ⑤ 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 | ー | ○ | ○ |
| ⑥ 特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額等の控除の明細書(複数銘柄は付表も) | ○ | ○ | ○ |
| ⑦ 特定新規中小会社が発行した株式の取得に要した金額の寄附金控除額の計算明細書 | ○ | ー | ー |
- 優遇措置B・プレシード・シード特例で繰戻し還付を請求する場合は、上の書類に加えて、特定株式控除未済額の計算に関する明細書と還付請求書が必要です。同じ年に所得控除の特例の適用を受けない場合、⑤⑥は不要です(申請ガイドライン)。
- 起業特例の提出書類は、経済産業省の起業特例のガイドラインで確認してください。起業特例では、いわゆる同族要件の確認は必要ありません。
繰戻し還付を使う場合(令和8年1月1日以後の取得分)
- 前年分:確定申告書に「特定中小会社が発行した株式を払込みにより取得をする見込みである旨の申出書」を添付し、提出期限までに出す
- 当年分:還付請求書(繰戻還付請求書)と、控除未済額の計算に関する明細書などを、原則として確定申告書と同時に、提出期限までに出す
5. 申告の流れ(作る順番・提出・期限)
- 会社から書類を受け取る:確認書、一定の株主に該当しない旨の確認書、株式異動状況明細書と、投資契約書の写しがそろっているか確認します。
- 措置を決める:第3章の軸で、優遇措置Aで申告するか、B・特例で申告するかを決めます。
- 明細書を作る:第4章の表に沿って、措置に応じた明細書を作ります。
- 確定申告書に反映する:控除額を確定申告書に記載し、書類を添付します。繰戻し還付を請求する場合は、還付請求書なども同時に出します。
- 期限内に提出する:2026年分は2027年3月15日(月)が期限です。繰戻し還付は、前年分・当年分ともに期限内の提出が条件です。
e-Taxで提出する場合、添付書類をどのように出すかは、提出前に国税庁の案内や所轄の税務署で確認してください。
6. 令和8年1月1日以後に取得した株式の変更点
令和7年度改正で、令和8年1月1日以後に払込みで取得した株式から、次の点が変わりました。詳しくは令和8年1月1日以降に取得する株式の、エンジェル税制の再投資期間と保有期間で解説しています。
- 再投資期間の延長:譲渡益が出た年の翌年末までの投資について、繰戻し還付の手続きにより、前年分の所得税の還付を請求できる場合があります。前年分・当年分とも、期限内に申告することが条件です。
- 保有期間の要件:プレシード・シード特例・起業特例で取得した株式に、取得した年の翌年末までの保有期間が設けられました。
再投資期間の延長と繰戻し還付は、どちらも優遇措置Aの対象外です。優遇措置Aで申告した投資額について、前年分の所得税の還付は請求できません。
7. 翌年以後の取得価額の調整
エンジェル税制の適用を受けると、その後に株式を売却したときの取得価額(取得費)が変わることがあります(No.1530・No.1544)。
- 原則:適用を受けた金額を、株式の取得価額から差し引きます。優遇措置A・Bはこの扱いです。優遇措置Bで繰戻し還付を受けた場合は、その基礎になった控除未済額も差し引く対象に含まれます。
- プレシード・シード特例など:特例で控除した額と、繰戻し還付の基礎になった控除未済額の合計が20億円以下なら、調整は不要です。
- 起業特例:適用を受けた額と、繰戻し還付の基礎になった設立特定株式控除未済額の合計で判定します。20億円以下なら調整は不要で、20億円を超える場合は、20億円を超える部分を取得価額から差し引きます。
- 翌年中に売却した場合の追加調整:令和8年1月1日以後に取得したプレシード・シード特例などの対象株式や起業特例の株式を、適用を受けた年の翌年中に「一定の譲渡」をした場合は、追加で取得価額を調整する必要があります(No.1530 注3・注4)。優遇措置A・Bの株式には、この追加調整はありません。
プレシード・シード特例の20億円と起業特例の20億円は、判定の対象になる金額が別です。混同しないよう注意してください。
8. よくあるつまずき
- 確認書が申告に間に合わない:払込後の確認申請の審査期間は、1か月程度が目安です。東京都は「正式な申請書類の受領後、原則1か月以内」、大阪府・神奈川県は「約1か月」としています(東京都のFAQ、大阪府・神奈川県の案内)。書類の補正があれば、交付はさらに遅れることがあります。年末の払込みは申告直前に申請が集中しやすいため、払込日から逆算して会社と段取りを確認してください。間に合わない場合の対応は、所轄の税務署や専門家にご相談ください。
- J-KISS(有償新株予約権)で出資した:新株予約権を取得した年ではなく、行使して株式を取得した年分で対象になり、行使日にすべての要件を満たしている必要があります。新株予約権の取得額を含められるのは、2024年4月1日以後に取得した新株予約権を行使し、払込みにより株式を取得した場合です。強制転換や、新株予約権を対価に株式を取得する場合は含められません(申請ガイドライン)。国税庁No.1530の「特例の対象となる特定株式」(2)の区分(設立10年未満の一定の会社の株式を、認定LPSまたは株式投資型クラウドファンディング(ECF)を通じて取得する場合)では、取得額を含められるのは認定LPS経由で取得したものに限られ、ECF経由は含められません(No.1530)。また、ECF経由で取得した新株予約権を行使した株式については、ECF事業者は確認書を発行できず、別途、都道府県への確認申請が必要です(申請ガイドライン)。詳しくはエンジェル税制の解説をご覧ください。
- 年末に株式を持っていない/一定の株主に当たる:控除の対象は、その年中に払込みで取得し、12月31日に持っている株式です。また、優遇措置A・B・プレシード・シード特例では、同族会社の判定の基礎となる株主など一定の株主に当たる場合は対象になりません(起業特例では、この同族要件の確認は必要ありません)。
9. 自分で申告するか、税理士に頼むか(判断の目安)
措置が1つで、銘柄も1社だけ、繰戻し還付も使わないといった場合は、国税庁の案内を見ながらご自身で申告する方も多くいます。一方、次のような場合は、専門家への相談を検討する目安になります。
- 優遇措置AとBのどちらで申告するか迷っている
- 複数の銘柄に投資した、または前年分から繰戻し還付を検討している
- J-KISSなど新株予約権の行使で株式を取得した
- 特例で取得した株式を、翌年中に売却する可能性がある
10. よくある質問
エンジェル税制の確定申告はいつ、何を提出しますか?
株式を払込みで取得した年分の確定申告で提出します。期間は原則として翌年2月16日から3月15日までです。会社から受け取った確認書・一定の株主に該当しない旨の確認書・株式異動状況明細書・投資契約書の写しと、措置に応じた明細書を確定申告書に添付します(申請ガイドライン、国税庁No.1150)。
優遇措置AとBはどう選べばいいですか?
一律の答えはなく、所得や譲渡益の状況によって変わります。総所得金額等の水準、その年と前年の株式譲渡益、繰戻し還付の申出の有無、売却の予定などを軸に、税額で比べて判断します。
優遇措置Aの控除額はどう計算しますか?
ほかに寄附金がない場合、「投資額(上限800万円)」と「総所得金額等の40%」のうち低い額から2,000円を引いた額です。2,000円は年に1回だけ引き、複数の銘柄がある場合は銘柄ごとに配分します(国税庁No.1150・No.1544)。
優遇措置Aでも繰戻し還付は使えますか?
使えません。繰戻し還付の対象は、令和8年1月1日以後に払込みで取得した優遇措置B・プレシード・シード特例・起業特例の株式です。再投資期間の延長も、優遇措置Aは対象外です(国税庁No.1530)。
確認書が期限までに届かない場合はどうすればいいですか?
まず会社に確認申請の状況を確認してください。審査期間は1か月程度が目安ですが(東京都は「原則1か月以内」、大阪府・神奈川県は「約1か月」)、補正があれば遅れることがあります。間に合わない場合の対応は、所轄の税務署や専門家にご相談ください。
J-KISSで出資した場合も対象になりますか?
新株予約権を行使して株式を取得した年分で、行使日に要件を満たしていれば対象になります。新株予約権の取得額を含められるのは、2024年4月1日以後に取得した新株予約権を行使・払込みして株式を取得した場合で、強制転換などは含められません。国税庁No.1530の(2)の区分(認定LPS・ECF経由で取得する場合)では、ECF経由の新株予約権の取得額は含められません(申請ガイドライン・国税庁No.1530)。
特例で取得した株を翌年に売るとどうなりますか?
令和8年1月1日以後に取得したプレシード・シード特例などの対象株式や起業特例の株式を、適用を受けた年の翌年中に一定の譲渡をした場合は、取得価額の追加調整が必要になります。上場後の譲渡や一定のM&Aなどは例外です(国税庁No.1530、申請ガイドライン)。
適用後、売却時の取得費はどう変わりますか?
原則として、適用を受けた金額(繰戻し還付の基礎になった控除未済額を含みます)を取得価額から差し引くため、売却時の譲渡益が大きくなります。プレシード・シード特例などは合計20億円以下なら原則として調整不要、起業特例は20億円を超える部分を差し引きます。ただし、令和8年1月1日以後に取得した株式を適用年の翌年中に一定の譲渡をした場合は、20億円以下の部分についても追加の調整が必要です(国税庁No.1530)。
個別の判断は、払込日時点の要件とご自身の所得の状況で決まります。この記事は制度の一般的な解説です。実際にどの措置が使えるか、どれだけ税額が変わるかは、会社の要件・払込みの時期・投資家ご自身の所得によって変わります。
投資家の確定申告と、出資先の会社の申請まで
税理士・行政書士が、投資家の確定申告と会社側の確認申請を、それぞれ別のご依頼としてお受けします。
- 投資家の確定申告サポート 110,000円〜(税込・投資家ご本人のご負担)
- 出資先の会社向け 適用可能性診断 55,000円(税込・会社のご負担)
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※ 本記事は2026年10月17日時点で公表されている法令・行政資料(国税庁タックスアンサーは令和8年4月1日現在法令等)をもとにした一般的な情報です。個別の取引や申告についての助言ではありません。実際の適用は、払込日時点の要件の充足、都道府県の確認、税務署の判断によります。手続きの前に、最新の申請ガイドライン・国税庁資料をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
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